初めて手にした岩波ブックレットと、「これだけは本当だ」と思うこと
初めて岩波ブックレットを手にしました。
岩波ブックレットは、現代社会が抱えるさまざまな課題に向き合うための小冊子シリーズです。市民や学生、小さなグループで活用されることも意識されているようで、難しすぎず、それでいて考えるきっかけを与えてくれる本だと感じました。
今回読んでいて、特に心に残ったのは、宮崎駿さんが『千と千尋の神隠し』をなぜ作ったのかという話です。
宮崎さんは、10歳くらいの子どもたちに向けて、
とにかくどんなことが起こっても、これだけは僕は本当だと思う、ということ
を語ってみたかったのだそうです。
この「どんなことが起こっても」という言葉に、私は強く引っかかりました。そこには、子ども時代に戦争を体験した人ならではの、根本的な姿勢がにじんでいるように思えたからです。
『千と千尋』の場面に重なる戦後の記憶
『千と千尋の神隠し』の中で印象的な場面のひとつに、千がカオナシたちを連れて、水に覆われた田園地帯を電車で進み、銭婆の住む沼の底へ向かう場面があります。
あの不思議な列車の乗客たちが、駅のプラットフォームを静かに乗り降りする姿は、どこか終戦直後の引き揚げ者たちのシルエットを思わせます。戦争が終わったとき、宮崎さんは4歳。その幼い自分自身の姿も、あの場面の中に一瞬重ねられているのだそうです。
映画の幻想的な風景の奥に、そんな戦争の記憶が流れていると思うと、見え方が少し変わってきます。
「これだけは本当だ」と思うことを頼りに
私たちは生きていると、何が正しいのか分からなくなる場面に何度も出会います。
社会の空気が大きく揺れたり、周囲の声が強くなったりすると、自分の感覚さえ曖昧になってしまうことがあります。そんなときに頼りになるのは、結局のところ、
「とにかくどんなことが起こっても、これだけは本当だと思うこと」
なのかもしれません。
本の中では、「犬も歩けば棒に当たる」ということわざも、少し違った角度から語られていました。
一度、何もかも手放して歩いてみる。すると何かにコツンとぶつかる。そのぶつかりが、新しい展開の始まりになる。
この見方は面白いなと思いました。漫然とぶつかるのではなく、自分で歩き出してみることが大事なのだと感じます。
幕末から明治維新へ――愚直さが歴史を動かすこともある
話はさらに、幕末の尊皇攘夷へと広がっていきます。
「これはおかしい」「理不尽だ」という感覚から、若い志士たちは愚直に尊皇攘夷へと走りました。外国人へのテロ、薩英戦争、下関戦争といった大きなしっぺ返しを受け、そこから今度は尊王開国へと転じていく。その二つのプロセスを経て、最終的に明治維新という革命が成し遂げられた、という見方です。
もちろん、歴史を単純化して語ることはできませんが、人が「これはおかしい」と感じたことから動き出し、失敗や反動を経ながら方向を変え、時代が動いていく――そのダイナミズムは確かにあります。
終戦、憲法九条、日米安保へとつながる問い
本の話は、さらに終戦後の日本へと移ります。
憲法九条、そして日米安全保障条約。
憲法九条という、地べたの普遍性に立脚した理念があるからこそ、日本は米国に基地を提供し、米国はその基地を極東の平和と安全のために使う――そうした条約の構図があるわけですが、その一方で、米国の都合による戦争に日本が巻き込まれるおそれもまた常につきまといます。
しかし逆に、ただひたすら誰かに頼るだけの関係であれば、今度は見捨てられる不安も出てきます。
人間関係でも国際関係でも、力の差がある中で依存するしかない場面はあります。だからこそ、「何かおかしい」「それは違うのではないか」と感じたとき、自分の中のこれだけは本当だと思うものを頼りに動くしかないのだと思います。
沖縄の基地跡地に国連本部を――大胆な提案
さらに本の中では、沖縄の基地をなくし、その用地にニューヨークの国連本部を移し、国際政治のセンターとして日本が平和のイニシアティブを取るという大胆な提案も紹介されていました。
とても大きな構想です。現実にはさまざまな壁があるでしょうし、実現は簡単ではありません。ただ、こうした発想が出てくる背景には、「日本はこれからどうやって平和に関わるのか」という問いがあるのだと思います。
そして、そのような大きな転換を考えるなら、日米安保条約の解消という問題にも向き合わなければならない、ということになります。
小さな本から、大きな問いへ
岩波ブックレットは小冊子ですが、そこから広がる問いはとても大きいものでした。
映画のこと、戦争のこと、歴史のこと、憲法のこと、そして国際平和のこと。話題は大きく飛んでいくようでいて、実は一本の線でつながっている気もします。
結局のところ、私たちは混乱の中でも、
「これだけは本当だと思う」
という小さな芯を持って生きていくしかないのかもしれません。
そんなことを、改めて考えさせられました。
なお、試し読みもできるようです。気になる方は、まずそこから触れてみるのも良さそうです。
加藤典洋(2018)どんなことが起こっても、これだけは本当だ、ということ(岩波書店)

