本を読みながら、あの頃を振り返る
前回、iPS細胞が発表されてから20年という節目に手にした、黒木登志夫先生の著書『iPS細胞 不可能を可能にした細胞』について、振りってみたいという思いを綴りました。
この本は、iPS細胞という一つの発見だけを語る本ではありません。その発見に至るまでの長い道のり、そして発見後の約10年間に起こった出来事を、研究者の視点から描いた一冊です。
20年という節目にこの本を読み返すと、iPS細胞の歴史だけでなく、その背景にあった数え切れない努力や偶然、そして多くの研究者たちの情熱まで見えてきます。
この本を改めて読み返して感じたのは、iPS細胞の歴史は決して2006年から始まったわけではないということです。
そこには、発生生物学や幹細胞研究、ES細胞研究など、何十年にもわたる多くの研究者の積み重ねがありました。そして、その土台の上に山中先生のiPS細胞という大きな花が咲いたのです。
本を読み進めるたびに、「そうだったな」「あの頃はこんな雰囲気だったな」と、当時の記憶が次々によみがえってきました。
私は幸運にも、2000年代から幹細胞やゲノム解析の分野に携わり、多くの先生方や研究者の皆さんと接する機会に恵まれました。学会で交わした何気ない会話や、研究室で見た最先端の実験、当時はまだ珍しかったDNAマイクロアレイの活用など、一つひとつの出来事が、今では貴重な思い出です。
次回は、黒木登志夫先生の『iPS細胞』を道しるべにしながら、私自身が見てきた20年間の記憶も交えて、iPS細胞の歩みを振り返ってみたいと思います。
内容は、次の5つのテーマに沿って進めます。
- 第一章 幹細胞とは何か
幹細胞とはどのような細胞なのか。そして、iPS細胞やES細胞との違いについて。 - 第二章 iPS細胞に至る道
「巨人の肩の上に立つ」という言葉のとおり、iPS細胞誕生へとつながった数々の基礎研究を振り返ります。 - 第三章 山中先生の歩み
外科医時代からアメリカ留学、帰国後の苦悩、そしてiPS細胞誕生まで。山中先生が歩まれた研究者人生をたどります。 - 第四章 私自身が見てきた研究現場
浅島誠先生との出会い、DNAマイクロアレイ、学会や研究室での思い出など、私自身が経験した研究現場についてお話しします。 - 第五章 20年を振り返って
iPS細胞が社会にもたらした変化、そして「Standing on the shoulders of giants」という言葉や、クリストファー・リーヴが語った「スーパーマン」の意味を重ねながら、20年という節目に感じたことをまとめたいと思います。
一冊の本を読み返すことは、単に知識を思い出すことではありません。その時代の研究者たちの情熱や、自分自身が歩んできた時間を振り返ることでもあります。
それでは、本を片手に20年前へタイムスリップしてみましょう。
