読書:獣医さんがゆく

15歳からの獣医学というサブタイトルには、高校生の段階で獣医のリアルを知ってほしいという願いがあります。また、獣医師志望学生だけでなく、多くの人に読んでほしい一冊という直木賞作家の河崎秋子さんの推薦が帯に。

まず、動物病院のリアルな一日を知ることができます。さまざまな獣医がいます。CT装置の使用はもはや普通。著者の寄生虫学者の浅川先生によると、さすがに寄生虫🪱のDNA解析まではせずに形態分類とのこと、形態分類から予測した寄生虫を文献で検索します。

これまでは英語の論文を読むのが大変でしたが、分からないことは生成AIが何でも日本語で丁寧に教えてくれるようになりました。それだけにとどまらず、自然な英語になるように自作の英語論文も推敲してくれる時代の到来です。日本の一般の臨床獣医が、究極要因に関する洞察力を深め、動物病院の現場で新たな発見や診断をして治療や予防を行う時代が始まることを予感させます。獣医学に限らず、これからの大学やビジネスの世界では、英語が流暢に話せることは今ほど重要ではなくなるでしょう。いつ変曲点を迎えても不思議ではありません。

ゲノム検査の進展により、検疫と防疫における水際対策として、既知の病原体に関するDNA分析がありますが、未知の病原体への備えが急務です。日本の現状の水際対策には課題があると感じました。環境中の生物の系統解析のためのDNA研究や未知の病原体をDNAレベルで監視する手法はかなり進んでいて、その分析にかかるコストも大きく低下しています。いつの時代でもそうなのですが、異分野との連携が大切です。これからの獣医さんたちへのメッセージとして『地球環境の激変が続くこの星で、とんでもない感染症のアウトブレークのような災害を防ぐ手段のひとつが、そういった予測をする技術開発であることは自明』という言葉が心に残りました。

浅川満彦(2025)獣医さんがゆく

獣医さんがゆく - 東京大学出版会
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