1977年の芥川賞を読んでみた ――「僕って何?」と問いかけられた日
以前、久坂部羊さんのノンフィクション医療エッセイ
『ブラック・ジャックは遠かった』を読んだときのことです。
医学部時代から医療現場の実話が綴られた一冊の中で、ふと「読書」の話題が出てきました。
そこには芥川賞の受賞作品のことも書かれていて、今回、当時の芥川賞作品を読んでみたいという気持ちがむくむくと湧いてきたのです。
手に取った芥川賞全集
芥川賞全集に収められていたのは、次の作品でした。
- 限りなく透明に近いブルー(村上龍)
- 僕って何(三田誠広)
- エーゲ海に捧ぐ(池田満寿夫)
- 螢川(宮本輝)
- 榧の木祭り(高城修三)
どれも1970年代という時代の空気を濃くまとった作品群です。
「僕って何」を読んでみて
今回読んだのは
『僕って何』。
この作品は『エーゲ海に捧ぐ』とともに芥川賞を受賞した作品です。
過保護に育てられた主人公が大学に入学し、成り行きで学生運動のセクトに巻き込まれていく――
という設定ですが、いわゆる「政治小説」という重たさはありません。
むしろ、とても読みやすい。
それはおそらく、恋愛小説の要素が強いからだと思います。
ただし、単なる恋愛小説ではありません。
物語の根底に流れているのは、
「自分とは何者か?」
という問い。
選評の言葉を借りますが、主人公の自己意識、存在不安、揺らぐアイデンティティ。
恋愛や男女関係は、その問いを浮き彫りにするための装置として機能しています。
ユーモアもあり、どこかとぼけた語り口。
確かに「若さ」がまっすぐに出ている作品だと感じました。
芥川賞・選評まとめ
芥川賞の選評を読んでみると、評価は実に興味深いものでした。
◎ 肯定的な意見
- 素朴な語り口で、学生運動に巻き込まれていく経過を厭味なく描いている
- 群衆を書きまくるエネルギーに将来性を感じる
- 素朴・無垢な若者が苦難を経て新しい局面に出る物語
- 「君って何?」という問いを含み、ユーモアもある
- 若さがよく出ていて明快
- 当時の学生気質を過不足なく描いている
△ 辛口の意見
- ものものしい題名のわりに心理描写が浅い
- 内面の展開が弱い
- 冗長に感じる
- 前半がだらしなく退屈
- 新人らしい大胆な冒険がなく、安全な書き方
評価が割れるのもまた、芥川賞らしいところでしょうか。
読書の連鎖
読書は不思議です。
一冊の医療エッセイから始まり、
1977年の芥川賞へとつながり、
そしてまた別の作品へ。
今回『僕って何』を読んでみて、
三田誠広さんの他の恋愛小説も読んでみたくなりました。
次回は、
『いちご同盟』を読んでみる予定です。
「僕って何?」という問いは、
きっと今の時代にも静かに響いているのだと思います。
(1982)芥川賞全集 第十一巻(文藝春秋)


