グーグル会長本とロゴ変更から10年
先日、10年前に買った文庫本を整理していたら、当時のグーグル会長が「ビジネスの真髄を初公開!」と謳った本の広告が出てきました。懐かしい気分になりつつ、思わず手を止めて読み返してしまいました。
Googleがモバイルやアプリに本格進出し、ロゴをフラットデザインに変更してから、ちょうど10年。実はこの本はロゴ変更前に出版されたものでしたが、戦略、企業文化、人材、意思決定、そして破壊的変化への対応など、新時代の経営に欠かせないテーマがぎっしりと詰まっていて、今なお古びた感じはありません。
序文を寄せているのは、当時のCEOラリー・ページ。大学教授か起業家を目指していた彼が挑んだのは、プロジェクトチームに「不可能」をやらせるほどの野心を抱かせることでした。世界中の道路の写真を集めた地図づくりのように、当初は無理だと思われた計画も実行し、大胆な賭けが革新的な変化を呼び込んだのです。
久しぶりに読み返してみると、当時の熱量やビジョンが今の自分にも刺激を与えてくれる気がしました。あらためて整理してみたポイントを、少しずつ書き残していこうと思います。
はじめに
・優秀なエンジニアを出来るだけ(半分以上)採用し、自由を与えた
知性と知性が混じり合えば、クリエイティビティと成功が生まれる
・彼らは近代以降に定着した言葉「ナレッジワーカー」ではなく「スマートクリエイティブ」
・彼らがモノを作る環境をマネジメントした →Googleplexの誕生
・100個の主要プロジェクトをランキングしたリストを作成した
・ユーザー中心主義を貫いた
・うまくいっていないことに注意を促し(メールを送る)別のクリエイティブが自分の意見や分析を加えた →新世界における経営のフレームワーク、部族の知恵
・スティーブ・ジョブスは元Google CEOのラリーページに度々アドバイスを与えていた。
これは、経営に関する本、若い人たちに手を貸す本。
・強固な戦略の土台に根差したアイデアが何より魅力的
文化:自分たちのスローガンを信じる
・ビジョンを繰り返し伝えて報奨によって強化した
・マネージャーには最低七人の部下を持たせた(7のルール)
・一番影響力の大きな人を中心に会社を作った。リーダーシップには情熱が欠かせない
→職務や経験ではなく仕事ぶりや情熱、リーダーはまわりの人間が作る
・チームの規模を小さく保った
・イエスという文化を醸成した
・優れた仕事は楽しくないといけない
・再建する時はデキル人間を見つけて別のデキル人間を集めた
・CEOが示す平等主義の精神
戦略 :あなたの計画は間違っている
・流動的な計画こそ計画。
・広告に頼らずに、いずれ収益を生み出すための素地を整える。
プラットフォームをスケールする。
・重視したこと:スピード、正確性、網羅性、鮮度
・Googleが作り上げたプラットフォーム、それは検索エンジン
プラットフォーマーとネットワーク効果を考える
プラットフォーマーと聞いて思い浮かぶのは、ツイッター、エアービーアンドビー、ウーバーといったサービス。情報の発信者と受け手、宿泊者とホスト、乗客とドライバー——人と人を結びつける「マーケットプレイス」を作り上げ、その上で強力なネットワーク効果が働きました。
たとえばUber。ドライバーが増えると待ち時間が短くなる → 利用者が増える → ドライバーにとっても稼ぎやすくなる。この正の循環が成長を加速させました。
一方で、消費者向け遺伝子検査サービス「23andMe」はそうはなりませんでした。彼らが目指したのは、遺伝子データを製薬研究につなげるモデル。けれど「他人が検査することで自分の結果の価値が変わる」というネットワーク効果は働きません。とはいえ、医療や保険に活かせる可能性があったり、新しいプラットフォームを作る“高価な素材”になり得たことも確かです。
考えてみれば、検索行為そのものが「新たなプラットフォームを作るための無償の素材」となったのかもしれません。ではNIKEは? ネットフリックスは? スポティファイは?
結局のところ、「プラットフォームを作る → マーケットプレイスが成立する → ネットワーク効果が出るかどうか」この連鎖が鍵になるのだと思います。
人材:採用は一番大切な仕事
・「レーズンは放置し、M&Mを放出」優秀な人物が塩漬けされることがないように
・スマートクリエイティブには幹部ミーティングに出席させ、専用のメーリングリストに追加
→共同創業者と仕事ができるチャンスを与えた
・優秀な人材の日常をより面白く、やりがいのあるものにした
・新たな役割を大切な人物に与え、組織の方がそれに合わせた
・採用の掟:自分より優秀で博識な人。製品と企業文化に付加価値をもたらしそうな人。仕事を成し遂げる人。熱意があり自発的。周囲に刺激を与え協力できる人。チームと共に成長できそうな人。多彩でユニークな興味を持つ人。倫理観があり率直に意思を伝える人。
・エレベーターピッチを準備する:今どんな仕事をしているのかと聞かれたら?
・どこか別のグローバルな場所で生活する、または旅をする。顧客目線で見る。
意思決定:コンセンサスの本当の意味
・データに基づいて決定する
・スライドは自らの意見を補強する材料:事実の共有、データの共有
→スライド枚数を減らしてデータを増やす
・重要度の高い問題が浮上したら毎日会議を開いた。オーナーは時間管理が重要
・後継者育成計画を作った
コミュニケーション:とびきり高性能のルーターになれ
・メールの心得:直ぐに返信する。無駄な長文いらない。受信トレイを綺麗に。古い案件は既に誰かが対応しているか確認。誰かに転送すべきだったメールを1日1回確認。BCCは誰かをメールから外す時。メールで叱らない。あとで検索しやすいようにする
イノベーション:原始スープを生み出せ
・新たな大ブームを作り出した
・CEOはCIOであれ、Innovation Officer
・ほぼ実現不可能な目標を設定した
スマート・クリエイティブとプラットフォーマーの夢
ナレッジ・ワーカーではなく「スマート・クリエイティブ」である私たち。自らをCIO(Chief Innovation Officer)と位置づけると、目指す方向がぐっと見えてきます。プラットフォーマーを育てるのには時間がかかりますが、その過程こそが挑戦の醍醐味でもあります。
マーケットプレイスを成功させるには、人と人をどう結びつけるかが鍵。ツイッターやウーバーのように、つながりが広がることでネットワーク効果が加速します。その一方で、箱にモノ(=データ)を蓄積してデータベースを充実させることもまた重要です。そのデータベース自体が“素材”となり、やがて新しいプラットフォームを生み出す可能性があります。しかも、その優れた素材が無償で使えるようになったとき、新たなイノベーションが芽吹くのです。
Googleロゴ10年ぶりの進化
そして今年(2025年)、Googleは「G」のロゴをおよそ10年ぶりに刷新しました。従来の四色(赤・青・黄・緑)のはっきりとした区切りから、今回はグラデーションで色が混ざり合うデザインへ。
この「混ざり合い」は、まさに“つながり”の象徴。AI時代を迎えたGoogleが掲げる、新しい方向性を示しているようにも思えます。
エリック・シュミット 著、ジョナサン・ローゼンバーグ 著、アラン・イーグル 著、ラリー・ペイジ 序文、土方 奈美 訳(2017)How Google Works(ハウ・グーグル・ワークス)
私たちの働き方とマネジメント(日本経済新聞出版社)
